投稿日:2023年09月26日
工場を見ていると大きな白煙状の水蒸気が上がっている装置があるかと思います。
この装置を近くから見たことはありますか。
引用元:神鋼環境ソリューションHP
引用元:IHIプラントHP
大型であれば、高さ数十m程度のサイズのものから、小型のビルの屋上に設置されているものまで数多くの種類があります。
この装置は、「冷水塔」と呼ばれる装置で、産業用の冷水装置として、幅広い分野で利用されています。
例えば、大型ビルやショッピングモールなどの商業施設では、大型の空調設備が一括で冷暖房をまかなっています。そんな大型の空調設備には、いつでも冷えた冷水を供給できる冷水塔が必要不可欠なのです。
その他に、工場では製造装置に使われる大量の冷却水は、一般上水をふんだんに消費するのではなく、冷水塔を用いて、工場内で循環して使用しているのです。
冷水塔を近くから見た事がある人は、水がザーと落ちている音がするので、
「水を上から落とすだけで冷えるからすごいなぁ」
と思うかもしれません。
実は冷水塔には、上から水を落とすだけではなく、様々な工夫をしているのです。しかし、冷水塔の構造は外からでは見えづらいため、ユーザーからも「なぜ水が冷えるのだろうか?」と疑問を持っている人が多い装置でもあります。
このコラムでは、よく工場や商業施設で見かける冷水塔が、なぜ簡単に水を冷却することができるのかについて解説します。
冷水塔とは
まず、冷水塔の基本的なことについて説明します。
冷水塔とは、大量の温水を連続的に冷水に変えることができる装置であり、クーリングタワーとも呼ばれています。
このコラムでは、複数の水の名前が出てくるので以下のように名前を付けておきます。
- 温水・・・冷水塔に入ってくる水の名前
- 冷水・・・冷水塔から出てくる水の名前
- 循環冷水・・・冷水塔内で循環する水の名前
冷水塔は、一般的に木材やFRP(強化プラスチック)や鋼材で組み立てられており、下部には冷水が溜まる水槽がついています。冷水塔はこの水槽を含めて、4つの機能を持つパーツによって構成されています。
- 温水をまんべんなく均等に上部から降らせるための散水装置
- 温水と外気を効率よく接触させるための充填材や銅管
- 外気を強制的に取り込むための送風機
- 冷えた冷水を溜め込むための冷水槽
温水を冷やすために冷水塔内の空気と接触させて、その温水を揮発(蒸発)させることで水を冷やします。さらに上部にあるファンによってその蒸気と空気を強制放出もしています。
冷水塔の種類
冷水塔の種類には、「開放式」と「密閉式」の2種類があります。密閉式の冷水塔は外気に触れることがなく冷却が可能なのですが、間接的に冷却することになるので効率は解放式に比べて低くなる傾向があります。
密閉式は冷水を汚すことなく工場や冷凍設備に送ることができるメリットがある反面、冷水塔内で循環する水が汚染濃縮されやすいため、定期的な水の入れ替えを行う必要があります。
また、密閉式冷水塔と比較されるのが「チラーユニット」と呼ばれる圧縮機や冷媒を使用した冷却装置です。
このチラーユニットは外気の影響を受けにくい為、水量が少ない場合については密閉式冷水塔よりもチラーユニットを採用することもあるようです。
密閉式冷水塔
開放式の冷水塔は、温水を冷水塔の上部から散布して空気と直接触れさせて冷却します。温水を上から落とす部分には、樹脂製の充填材が入っており、充填材の上から温水を降らせる構造となっています。
この充填材を温水が通ることで、温水が細かな粒となり、空気と触れる表面積を増えて蒸発がしやすくなるのです。
大量の水を冷却する場合の多くは、開放式を採用しているため、ここからは開放式の冷水塔について説明していると考えてください。
開放式冷水塔
開放式冷水塔の種類
開放式冷水塔の種類は「カウンターフロー型」と「クロスフロー型」の2つがあります。
2つの違いは、温水と空気が接触する向きが異なるという点です。
カウンターフローは、塔の下側から外気を取り込み、塔上部に組み立てられている充填材を下から上に向かって吹いていく構造となっています。その為、空気の向きが温水の落ちてくる向きと対向することからこのように呼ばれています。
カウンターフロー型のメリットは、充填材などが、外気に触れる箇所が少ないため、凍結による性能低下の恐れがある寒冷地方に向いています。
一方、クロスフロー型は、空気と水が十字(クロス)型に接触することから、このように呼ばれています。
充填材は定期的に劣化していないか点検をする必要があったり、数年おきに充填材の更新を行う必要があるのですが、このクロスフロー型は充填材が外側に取り付けている為、点検や更新が簡単にできるといったメンテナンスに優れた構造として幅広く普及しています。
冷水塔は空気と直接触れることで冷やすことができるのか
ここからは冷水塔でどのようにして水温を冷やしているのかについて説明します。
冷水塔が温水を冷却するには、「潜熱」をうまく利用しています。
冷水塔の上部から蒸気がもくもくと出ているのを見たことはないでしょうか?
あれは、温水が蒸気となる際に、温水から潜熱を奪って蒸気となることを利用しているのです。
もちろん、外気との温度差がある場合(例:温水40℃、外気乾球温度30℃)は、その温度差による顕熱の冷却効果も得られますが、潜熱による冷却効果に比べると4分の1程度しかないといわれています。
外気との温度差による冷却:顕熱による冷却・・・性能の20%
温水の一部が気化することによる冷却:潜熱による冷却・・・性能の80%
性能に大きな影響がある「潜熱」による冷却効果は、一体何に起因するのでしょうか?
答えは、湿球温度(WB値)です。通常、外気温というと乾球温度を指しますので、普段は聞きなれない温度ですね。冷水塔の温水温度と湿球温度の差が、その冷水塔の性能に大きな影響を与えることになります。その差が大きければ、冷水塔の性能は高くなります。
※逆に、温水温度と湿球温度の差が0となれば、冷水塔の性能が全くでないことになります。冷水塔は、湿球温度以下には水を冷やすことはできません。
日本の夏場の平均湿球温度は、26℃~28℃といわれていますが、湿球温度は湿度と気温によって値は変化します。季節によって外気の湿球温度は大きく変化しますので、冷水塔の設計では通常夏場(設計上厳しい条件)を基準として設計されています。
さらに、水を効果的に揮発(蒸発)させるために、冷水塔という装置では、以下の工夫がされているのです。
- 充填材を使って水滴を細かく分散し、薄い水膜を作ることで表面積を大きくしている。
- 強制換気用のファンにより、常に新鮮な外気との接触をさせ続けている。
身近なもので冷水塔の仕組みを理解する方法があります。
水で濡らしたタオルを軽く絞って、手でそのタオルをぐるぐると振り回してみてください。
しばらく回すと、そのタオルが冷えているはずです。これは、潜熱による冷却効果でタオルに含まれた水分が冷やされたのです。
余談ですが、強制換気を使わずに効果的に温水を冷却している温泉施設もあります。
大分県別府市にある鉄輪温泉にある名湯「ひょうたん温泉」では、100℃に近い温水を湯雨竹と呼ばれる装置で簡単に冷却して温泉にちょうど良い温度に下げるシステムを導入しています。(参考URL:https://www.hyotan-onsen.com/sp/yumetake/index.html)
まとめ
冷水塔は、水が蒸気になる際に奪われる潜熱を利用して冷却をしている装置といえます。水が蒸気となる量(揮発量)は、温水と外気の湿球温度の温度差(=温水温度―湿球温度)によって決まり、その量が冷水塔の性能に大きな影響を与えることになるのです。
その為、季節によって冷水塔の性能が変化することを留意しておく必要があります。
また、開放式冷水塔には、クロスフロー式とカウンターフロー式の2種類があり、空気の流れや充填材の配置に違いがありますが、多くの場合はメンテナンス性を考慮して、クロスフロー式を採用していることが多いです。