投稿日:2025年02月17日
部品表(BOM)は、製品開発や生産の基盤となる「製造業のマスタ情報」であり、設計者や製造担当者が共有する「共通言語」です。
本記事では、部品表の基本的な役割から、設計部品表(EBOM)と製造部品表(MBOM)の違いや活用法までを分かりやすく解説します。
このコラムを書いた人
PLMソリューションエンジニア
製造業向けPLM(製品ライフサイクル管理)ソリューションの開発リーダーとして、6年にわたり部品表(BOM)を中心としたシステム設計・導入支援に従事。自動車、家電、機械産業など幅広い業界での経験を活かし、製品データの一元管理や業務プロセスの最適化を実現。PLMシステムの要件定義から開発、運用までを一貫して支援し、現場に密着した実践的なソリューションを提供している。
部品表とは?
部品表とは、製品や組み立て品がどのような部品から構成されているのかを一覧形式で示したもので、英語では「BOM」(Bill of Materials)と言います。
製造業の企業にとって欠かせない基盤情報であり、化学業界や食品業界では「レシピ」や「配合表」という呼称が一般的です。
現在、多くの企業で部品表システムが導入されており、部品表データの検索や活用が効率化されています。部品表システムでは、製品の製造番号や部品番号、部品名をもとに品目情報を調べることが可能です。
さらに、製品の構成部品を一覧表示する「正展開」や、特定の部品がどの製品に使われているかを把握できる「逆展開」など、実務に直結する機能が充実しています。
品目マスタと部品表の関係
製品の定義についての情報として、部品表の他に「品目マスタ」があります。品目マスタは製品や部品(原材料)、半製品などの属性情報を管理しているものです。具体的な属性としては、品目番号(P/N)、品目名称、単位、サイズなどを含みます。
品目マスタは個々の部品の属性を管理していますが、部品表は製品や半製品、組み立て品の親子関係のみを保持しています。
設計図と部品表の関係
部品表の情報は設計図から得られます。それでは、設計図と部品表は何が違うのでしょうか。
まず、製品や機械の構造を表す図面には「部品図」と「組立図」があります。
部品図は部品の細かい仕様を記載したもので、組立図は部品の組み合わせた方がかかれています。品目マスタは部品図を元に作成され、部品表は組立図から作成されます。
図面は、人間がそれを見て全体像をつかみ作業手順を把握するのに使用します。一方、品目マスタや部品表は量産体制に入ったとき、部品の手配や払い出しを効率的に行うために使います。
部品表が役立つ場面
部品表は生産計画、生産管理、営業活動など、製造業のさまざまな場面で非常に役立ちます。
生産計画
製造業での部品表の活用として、まず挙げられるのが生産計画です。
部品表は生産計画の立案と管理に不可欠なツールです。需要予測に基づいて、必要な部品や原材料の調達計画を立てることができます。
生産管理
部品表は、生産スケジュールの作成や、リソース(人員、設備、原材料など)の適切な配分にも活用されます。
また、設備の故障、部材の不足や不良などの不具合が発生した際、不具合の影響を最小限に抑えるため、部品表が活用されます。
営業活動
顧客への提案時に製品の部品表から仕様やオプション体系を確認することで、適切な提案が可能です。また、部品表に基づいて、製品の構成変更に伴う価格の変動を素早く計算し、顧客に迅速な見積もりが提供できます。
用途で異なる部品表の種類
部品表は元来1つの企業内で1つのものです。
しかし、多くの企業では、設計部品表(EBOM)と製造部品表に分けて管理しています。
設計部品表とは?
設計部品表(EBOM)は、設計部門が作成する部品構成表であり、設計上の部品構造を詳細に示しています。設計部品表は図面と一体となって運用され、設計情報を他部門へ正確かつ効率的に伝達する重要な役割を担っています。
製造部品表とは?
製造部品表(MBOM)は、製造管理部門により作成され、製造に関わる部門の人たちが正しく製品を作り上げていくための部品表です。設計部品表に工程の情報や組み立て順序などの製造に必要な情報が追加されます。
設計部品表と製造部品表の使い分け
設計部品表と製造部品表はどのように使い分けるのでしょうか?それぞれの違いを整理し、具体的な運用方法について詳しく解説していきます。
設計部品表と製造部品表の違い
設計部品表と製造部品表の違いを以下の表にまとめました。
設計部品表 | 製造部品表 | |
目的 | 機能を実現するため。 設計上の部品を定義。 | 製造プロセスを最適化するため。 生産を行う工程を定義。 |
作成部門 | 設計部門 | 製造管理部門 |
内容 | 最新の設計情報が反映される。 3D CADのアセンブリに似た構成。 | 組み立て順序や工程の情報が含まれる。 |
更新頻度 | 設計変更時 | 製造手順の変更時 |
設計部品表と製造部品表の運用
設計部品表は、設計上の機能を基軸に構成された部品表です。しかし、製造工程で活用するには、工程を中心とした製造部品表に変換する必要があります。
設計部品表から製造部品表への部品表の再構成は、生産管理部門の工程設計者の業務です。工程設計者は設計部品表を参照して製品を作り上げるための最適な工程を考えます。そして、設計上の構成品目を工程別に割り振り直します。
部品表の再構成の作業は大変手間がかかり、間違えの起きやすい作業です。そこで、設計部品表から製造部品表に自動で変換する仕組みがあれば効率的です。
筆者は過去に設計部品表から製造部品表に変換するシステムを開発した経験があります。その際には、製品の種類ごとに工程パターンマスタを登録して、これを元に製造部品表の構成の骨組みを作成する仕組みを構築しました。
このアプローチにより、工程の変更にも柔軟に対応し、効率的かつ一貫性のある製造部品表の作成を実現しました。
まとめ
本記事では、機械設計者が理解しておくべき部品表(BOM)の基本的な役割から、設計部品表(EBOM)と製造部品表(MBOM)の違いと運用法までを解説しました。
部品表は製品開発から生産管理、営業活動に至るまで、製造業のあらゆるプロセスを支える重要な情報基盤です。設計部品表は製品の機能を中心に構成され、一方で製造部品表は生産工程を最適化するための情報を整理したものです。
機械設計者として部品表に関する知識を深めることは、設計力の向上だけでなく、製造現場との連携を強化し、製品開発全体を成功に導く鍵となるでしょう。