防爆の基本的知識と2種防爆の広すぎ問題

投稿日:2022年08月16日

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電気機器をコンセントにつないだ時に(放電)スパークが起きるのを見たことがありますか?電気器具はそのスイッチのONOFFの際に一瞬スパークが起きます。

もし周囲に可燃性のガスがあった場合、スパークが着火源となってガス爆発を引き起こすことがあるのです。

普通の生活環境では、まずそんなことは起きません。しかし、可燃性ガスや危険物を製造や扱う工場では、電気設備が点火源とならない様に厳しい規定があり、その規定をクリアした防爆構造の電気機具が用いられています。

その規定とは、「可燃性ガス・蒸気が滞留する恐れがある場所では、防爆構造の電気器具を使用すること」となっています。「防爆構造」とは、電気器具類が可燃性ガス蒸気の点火源とならない特殊な構造のことを指しています。

可燃性ガスや危険物の製造や取り扱いをする職場で働く人にとっては、「電気器具はすべて防爆構造のモノしか使えない」という意識がとても根強く、製造現場にある照明器具や電気の接続具などあらゆる電気器具が防爆構造になっています。

そんなあまり聞きなれない人もいるかもしれない「防爆構造」の紹介と、その規定による現在のちょっとした問題点を紹介します。

防爆仕様(耐圧防爆)の機器の操作盤

(重厚感のある見た目が特徴)

防爆構造とは?

防爆構造の成り立ち

この防爆構造とは、半世紀以上前の昭和44年に規定された「電気機械器具防爆構造規格」に規定された構造規格が発端であり、国が定めた構造規格はこの1つのみなのですが、その後に国際規格であるIEC規格(IEC:国際電気標準会議)で定めた技術的基準が、国内の構造規格とは別で認められています。

その為、現在防爆構造として認められた機器はこの2つのどちらかの規格に合格したものであることが、防爆構造の条件となっています。

防爆構造として合格をもらうには

日本の国内では、公益社団法人の産業安全技術協会等(国から認可を受けた登録機関)の防爆試験(型式検定)を受け、その試験に合格する必要があります。

※合格した機器には型式検定合格証が発行されるので、もし防爆構造の確認が必要であれば、製造元からその合格証の写しをもらってください。

防爆構造の種類

国内の防爆構造とIECの技術的基準は、ほとんど内容は同じです。その種類を以下に示します。

耐圧防爆構造

ケースの中に侵入した可燃性ガスが、ガス爆発がおきても、そのケースが損傷することなく耐えられる強度を持っているとされる防爆構造です。

小型の機器やモータ等で比較的容易にケース強度を上げられる電気器具には向いていますが、機器重量が大きくなってしまうのが難点です。

内圧防爆構造

ケースの中に保護ガス(窒素等の不活性ガス)を外気より高い圧で保圧し続けている構造になっている為、可燃性ガスの侵入を防ぎ、常にケース内が爆発性雰囲気にならない様になっています。

ガスクロマトグラフィー等の分析機器は他の防爆構造では難しい為、この内圧防爆型で対応しています。

安全増防爆構造

使っているときに絶対にアークや火花が発生しない電気器具に対して、温度上昇や火花発生の防止措置をしている(二重の安全対策)構造となっています。電気器具としては軽量で防爆化ができるというメリットがありますが、安全増防爆にできる電気器具が限定的となっています。

樹脂重点防爆構造

火花が発生したり、高温になる部分の周囲を樹脂で満たすことで、可燃性ガスの点火源にならない様にしたものになっています。

電気回路ごと樹脂で覆ってしまうため、コンパクトに電気回路をまとめて防爆化することが出来ます。しかし、バッテリー等の交換が出来ないことや絶縁体で覆うことによる静電気の対策等の考慮が必要となります。

本質安全防爆構造

通常の使い方だけでなく、故障による異常発熱や火花発生が生じたときであっても、可燃性ガスの点火源にならないということが試験で証明されたものが、この本質安全防爆構造になります。

この防爆構造は、常に周囲が爆発性ガスに充満された条件下でも、その電気器具を使用できるものして認められています。

非点火防爆構造

使用中だけでなく、異常な状態においても周囲の可燃性ガスを発火させるだけのエネルギーを持たない電気器具に適用することができる防爆構造です。

他の防爆構造とは違い、その装置の電気エネルギーが単に低いからという条件で防爆構造として認められている為、使用できるエリアは、危険区域の中で比較的リスクが低いエリアに限定されます。一般的に「簡易防爆」とも呼ばれます。

構造規格の記号

防爆構造のモノはどういった場所で使用するのか?

可燃性ガスや危険物を取り扱う石油化学工場では、可燃性ガス蒸気が発生する恐れがある場所に対して、消防法の危政令9条にて3つのランクを付けた場所で取り扱うように規定しています。

その3つの場所は、より危険な場所の順で「0種場所」「1種場所」「2種場所」と呼ばれ、その場所で使用できる防爆構造も決まりがあります。

0種場所は常に可燃性ガスが充満している場所や放出口周りなどとされており、1種場所や2種場所については、その事業者が細かい場所を規定し定めているのが一般的です。

とはいえ、2種場所の規定がそもそもあいまいになっている為、実際のプラント内では、その場所を明確に区分することが難しく、2種場所の範囲を取り扱いエリア全体としているのが一般的です。

防爆構造とその対応した危険場所の規定

危険場所の種別 危険場所の条件 対応可能な防爆構造
0種場所(特別危険箇所) 連続的にガスや蒸気が爆発の危険がある濃度に達している恐れがある場所 本質安全防爆構造
樹脂充填防爆構造
1種場所(第1類危険個所) 通常の状態では、爆発の危険がある濃度に達することがたまに起こりうる場所 本質安全防爆構造
樹脂充填防爆構造
耐圧防爆構造
内圧防爆構造
安全増防爆構造
油入防爆構造
2種場所(第2種危険場所) 通常の状態で、爆発の危険がある濃度に達する恐れが少ない場所 本質安全防爆構造
樹脂充填防爆構造
耐圧防爆構造
内圧防爆構造
安全増防爆構造
油入防爆構造
非点火防爆構造

2種場所の範囲が広すぎることによる弊害

昨今のプラント内のIoT導入やスマートプラント化(経産省主体のスマート保安の取り組み)では、現場に設置したいIoT化ディバイスが防爆化されていないことによる弊害が顕在化してしまっています。

特に、2種場所(第2種危険場所)が工場敷地全体として規定してきた企業にとっては、防爆型のスマートフォンを導入しない限り、製造現場にカメラ一台も持ち込むことが出来ないことになるのです。その為各企業では、まず防爆エリアとして規定した自社ルールの改定及び見直しが求められているのです。

これが「2種場所の範囲が広すぎ問題」です。当然、防爆機器のスマートフォンやタブレットだけでなく、あらゆる機器の防爆構造が近年で登場していますが、価格が高騰しており導入のハードルを上げているといった状態です。

一方で、こういった危険物を扱う工場が抱える問題点として、現場の経験者不足、経年劣化した設備によるトラブルの頻発の対策が必要となっています。

そういったリスクをIOT機器やAIの技術で乗り越えなければいけないと判断した経産省が、2019年に石油・化学プラント内での電子機器等の活用範囲の拡大に向け、「ガイドライン」を作成し、2種場所(第2種危険区域)の見直しを行うように民間企業に働きかけをしています。

まだこの動きは始まったばかりですが、今後の官民の動きに注目してみるのもいいのかもしれません。