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ステンレスと鉄でどちらを使用するか迷ったときは?

投稿日:2025年12月24日

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設備設計やメンテナンスの現場で、「ここはでいいのか?それともステンレス鋼にしたほうがいいのか?」という材料選定の判断を迫られる場面は少なくありません。

特に化学プラントのように、腐食環境・温度条件・コスト制約などが複雑に絡む現場では、この選定が長期的な信頼性や維持費に直結します。

私は長年、配管や機器の設計・保全を担当してきましたが、単に「錆びにくいからステンレス鋼」といった安易な判断では後々痛い目を見ることが多いのを実感しています。

この記事では、ステンレスと鉄の特徴の違い、選定の基準、そして現場での実際の判断ポイントを、経験に基づいて丁寧に解説します。本コラムでは、炭素鋼も鉄に含まれるものとして記載しています。

このコラムを書いた人

機械系プラントエンジニア
国内化学プラントで機械設計や建設工事を10年以上経験。危険物製造設備、発電・ボイラ設備・排水処理設備、研究施設の多種多様な設計・調達・工事に携わり、その知識をコラムにて発信中。現場でも活かせる専門知識を、日本のモノづくりに活かしてもらいたい!という強い思いを持っている。

鉄(炭素鋼)の特徴とメリット

まずは鉄の特徴についてまとめてみます。

【メリット】コストが安く、加工性が良い

鉄(炭素鋼)は、よくCS(Carbon Steel)と略されて呼ばれることが多く、代表例として、一般構造用圧延鋼材(SS400)、配管用炭素鋼鋼管(SGP)、圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG)、機械構造用炭素鋼鋼材(S45Cなど)があります。

これらは、何よりも価格が安いのが最大の利点です。ステンレス鋼の3分の1程度のコストで入手でき、溶接・切断・曲げなどの加工も容易です。そのため、大規模な配管ラインや支持構造物など、腐食リスクが低い部分には今でも鉄が主流です。

【メリット】強度が高い

炭素量を調整することで強度を自在に変えられるのも鉄の強みです。機械構造用鋼(S45Cなど)は高強度で、シャフトや歯車やボルトなど広く用いられます。

【メリット】材料供給が豊富

鋼材メーカーの在庫も豊富で、納期・加工面でも柔軟に対応できます。

【デメリット】錆びやすさと維持管理コスト

一方で、鉄は腐食に非常に弱いという致命的な欠点があります。屋外や湿気の多い場所ではすぐに赤錆が発生し、長期的には強度低下や漏洩につながります。

防食塗装を行っても、塗膜が剥がれた部分や溶接部から腐食が進行しやすく、定期的な点検と再塗装が必要です。

つまり、初期費用は安くても、長期的な維持コストが高くつく可能性があるのが鉄の宿命です。

ステンレス鋼の特徴とデメリット

続いてステンレス鋼の特徴を説明します。

【メリット】耐食性が非常に高い

ステンレス鋼の最大の特徴は、クロム(Cr)による不動態被膜による防食効果です。表面に形成される酸化クロム層が外部からの酸素・水分を遮断し、内部の鉄が酸化するのを防ぎます。

この被膜は非常に薄いにもかかわらず、傷ついても自然に再生する自己修復性を持っています。塩分や酸性雰囲気など、腐食環境下ではSUS304よりもモリブデンを含むSUS316の方が有利です。

ちなみに、ステンレス鋼は英語でStainless Steelといい、略されてSSと記載されることもありますが、JISではSUS(Steel Use Stainless)といった記号を使用しています。

【メリット】メンテナンス負担が少ない

ステンレス鋼は塗装が不要で、清掃だけで長期間美観を保てます。そのため、衛生管理が必要な設備(食品・医薬・水処理など)や、手入れが難しい場所に適しています。

長期的な耐用年数を考慮すると、初期投資は高くてもトータルコストが安くなるケースも多いのです。

【デメリット】コストと応力腐食割れ

ステンレス鋼にも弱点があります。まず材料費が高いです。また、熱伝導率が低いため溶接歪みが出やすく、溶接後の変形・残留応力が問題になることがあります。

さらに、塩化物環境(海辺や塩素を扱う施設など)では「応力腐食割れ」と呼ばれる現象が発生する場合があります。つまり、「ステンレス=万能」ではなく、環境を見極めて材質を選定する必要があるのです。

以下の表は、各温度におけるオーステナイト系ステンレスSUS304の塩素イオン環境における応力腐食割れ(SCC)の発生しやすさを示したものです。

材質選定の考え方

材質を選定する際は、目的と環境で判断すると良いでしょう。

腐食環境で判断する

まずは腐食性がある環境かどうかを考慮することが重要です。

環境条件 推奨材質 補足
屋内・乾燥 炭素鋼(防食塗装あり) 低コストで十分
屋外・湿潤 亜鉛メッキ鋼 / SUS304 中程度の防食性
海岸・塩分 SUS316 / チタン 応力腐食割れに注意
酸を扱う設備 SUS316L / ハステロイ 高耐食性
アルカリを扱う設備 炭素鋼 アルカリ環境ではステンレスの腐食に注意

つまり、「どこに設置されるか」「何と接するか」を最優先に考えます。腐食要因を明確にすれば、自然と最適な材質が見えてきます。

とくに注意が必要なのは、沿岸部の海水(塩化物環境下)に濡れる環境下で、応力が掛かると発生するステンレス鋼の応力腐食割れです。この応力腐食割れはSUS304を使用している際に発生するケースが多いのが特徴です。

温度条件で判断する

高温では鉄もステンレス鋼も酸化しやすくなりますが、酸化皮膜の安定性はステンレス鋼が高いため、SUS304が多く採用されます。

ただし、ステンレス鋼は炭素鋼に比べ熱膨張率が高く温度膨張を嫌う回転軸などでは、炭素鋼の方が多く採用されます。

一方、低温側(−40℃以下)では靭性低下を避けるために低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板や低温圧力容器用炭素鋼鋼板やSUS304Lを使用するのが一般的です。

クリーン度・衛生性が求められる場合

錆や剥がれた塗膜が「異物混入」や「測定誤差」に直結するため、表面が滑らかで清掃が容易なステンレス材が必須であるケースが多いです。

  • ステンレス材を選択すべき環境例:食品工場、製薬設備、半導体製造室、クリーンルーム
  • ステンレス材を使用すべき装置例:実験装置、理化学機器、分析装置、医療機器

コストとメンテナンスのバランス

短期プロジェクトや仮設ラインなど、寿命が短い設備では安価な炭素鋼が合理的です。そのため、使用する環境に問題ないのであれば炭素鋼を選択し、建設コストや製造コストを抑えようとすることはエンジニアとしては素晴らしい判断であると言えます。

しかし、現在は、

  • 熟練溶接工やメンテ技術者の不足による人件費の高騰
  • 設備停止や再施工の機会損失が大きなリスク

といった理由から、材料費を安価にするよりも「交換頻度を減らすこと」「メンテナンス性を高めること」の方がトータルで安価になるケースの方が多くなっています。

その場合は、初期投資が高くてもステンレス鋼を選ぶ方がメンテナンスコストを抑えられ、結果的に安上がりになります

そのため、材料選定をする際に、「材料費」で比較するのではなく、「ライフサイクルコスト(初期費用と維持費用を合わせたコスト)」を考慮して選択しなければなりません。

迷ったときは「環境×期間×メンテナンス×コスト」で考える

最終的に、ステンレス鋼と鉄のどちらを使うべきか迷った際は、「腐食環境」「使用期間」「メンテナンス性」「コスト」の4つで判断するようにしましょう。

設備は「設計時に見えないコスト」が後からじんわりと効いてきます。最初の材質選定で適切な判断が出来るように、考え方を身に着けておきましょう。

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