2D図面は完全になくせるのか? 3Dデータ活用の未来

投稿日:2025年05月15日

3回にわたって「CAE解析」に関するシリーズをお届けします。
本日は、第2回となります。

シリーズ内容
第1回:3次元データの活用が製造現場に与えた変化
第2回:2D図面は完全になくせるのか? 3Dデータ活用の未来
第3回:現場でのCAE活用の課題とは?+アンケートご協力のお願い

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ものづくりの現場では、3Dデータの活用が進み、2D図面の役割が変わりつつあります。

かつて、設計の成果物といえば「紙図面」でしたが、近年では3D CADが当たり前になり、設計・製造・検査のすべての工程でデジタルデータを活用する流れが加速しています。

経済産業省「2020年版ものづくり白書」では、「3D CADを活用してバーチャル・エンジニアリングを進めることは、エンジニアリングチェーンの強化に不可欠である」とされています。

実際、3D CADを導入している企業ほど、製品設計力や工程設計力の向上、さらには設計リードタイムの短縮といった成果が表れていると報告されています。

とはいえ、「完全に2D図面をなくせるのか?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?

今回は、2D図面の現状と未来について考えてみます。

2D図面は本当に不要なのか?

かつては「図面を描く力」が会社の技術力を示す指標とされていました。
しかし今では、「デジタルデータを活用できる力」が企業の競争力を左右する時代になりつつあります。

設計の変化:紙図面 → 2D CAD → 3D CAD
・かつて:紙図面が設計の成果物だった
・ 現在:設計の成果物は「3Dモデル」にシフト

特にモデルベース定義(Model-Based Definition) の考え方が広まり、3D CADデータそのものが設計の基準 となる動きが進んでいます。

すでに一部の企業では、2D図面なしで設計から製造までを完結させる試みも進んでいます。

製造現場では「3Dデータ」が主流に

製造工程においても、3Dデータを直接活用する技術が普及してきました。

・ レーザー切断機は2D CADデータを活用
・ CNC加工機では、3D CADデータから直接NCプログラムを作成
・ 3Dプリンタは、3Dモデルをそのまま使用

このように、製造工程では2D図面を介さず、3Dデータをそのまま使う流れが進んでいます。

また、設計データを製造現場とリアルタイムで共有できる仕組みも整いつつあり、紙図面を介した情報伝達が減少しています。

検査工程でも進む3Dデータ活用

検査工程においても、3Dデータの活用が進んでいます。

・ 3Dスキャナーを活用し、製品形状を3Dモデルと比較
・ 従来の測定工具(ノギス・マイクロメータ)から非接触測定へ移行
・ CMM(三次元測定機)との連携が進み、3Dモデルを基準にした検査が主流に

さらに、3D CADデータに公差情報を付加する試み(PMI:Product Manufacturing Information)も進んでおり、2D図面を使わなくても製造と検査が可能な環境が整いつつあります。

2D図面を完全になくすための課題

① 現場のオペレーターの対応

・多くの現場作業員は、2D図面に慣れており、3Dデータの活用に抵抗を持つケースもあります。
・タブレットやモニターで3Dモデルを確認する運用が広がっていますが、まだすべての現場に普及しているわけではありません。

② 3Dデータの標準化

・ 3Dデータに寸法・公差情報を含めることは可能ですが、統一されたフォーマットが必要になります。
・企業ごとに異なる3Dデータの管理・共有方法をどう整備するかが課題となります。

③ 2D図面が必要な業界・規制

・業界によっては、過去の設計資産や社内手順との整合性の観点から、依然として2D図面が重要な役割を担っているケースもあります。

・ISOやJISなどの多くの製図関連規格は、依然として2D図面を前提に構成されているため、完全な廃止は容易ではありません。

2D図面はいつなくなるのか?

 

近年のAIの凄まじい発展を考えると、その恩恵は製造業にも波及しそうです。

AIが3Dデータを正確に判断できるようになれば、人間が図面を見ることなく製造や検査が可能になるかもしれません。

試しにAIを使って「2D図面がいつなくなるのか?」を予想してもらいました。
以下が、その結果です。

短期(5年以内):2D図面はまだ使われるが、3Dデータ活用が拡大
・ モデルベース定義の試験運用が増える
・ 3Dデータを活用する企業が増加
・ しかし、2D図面も依然として必要

中期(5〜10年):3Dデータが主流になり、2D図面の役割が縮小
・ 製造・検査で3Dデータを直接使うケースが一般化
・ 2D図面は「補助的な資料」として使われる

長期(10〜20年):2D図面は「ほぼ不要」に
・ 3D CADデータが完全に標準化
・ モデルベース定義が定着し、2D図面なしで製造・検査が可能に
・ 2D図面は「例外的なケース」のみ使用

結論:2D図面は完全にはなくならないが、ほぼ不要になる

・ 設計・製造・検査のすべてで3Dデータを活用する流れが加速しています。
・ 短期的には2D図面は残りますが、中長期的には「補助的なもの」へと変化します。
・ 将来的には、3Dデータのみでのものづくりが一般的になる可能性が高いでしょう。

今後、3Dデータをいかに活用できるかが、企業の競争力を左右する時代に突入しているのです。

経済産業省の「2020年版ものづくり白書」でも、次のように指摘されています。

「我が国の製造業では3Dによる設計が未だに普及しておらず、バーチャル・エンジニアリングの体制が整っていない。不確実性が高まり、製造業のダイナミック・ケイパビリティの重要性が増している中で、このバーチャル・エンジニアリング環境の遅れは、我が国製造業のアキレス腱となりかねないと言っても過言ではない。」

いまこそ、3D設計・データ活用への本格的な移行が求められています。

次回は、「現場でのCAE活用の課題とは?」をお送りします。

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