投稿日:2025年02月28日
電動モーターは制御性が優れているため、さまざまな場所で使われるようになりました。しかし、一般的に電動モーターの「トルク」や「回転数」が使用機器の要求仕様と一致することは少なく、変速機とセットになったギヤードモーターが使われるようになりました。
この記事では、ギヤードモーターの選び方について、具体例を交えながら解説します。
このコラムを書いた人
歯車設計のスペシャリスト
大手機械メーカー10年中小メーカーで30年機械設計の経験を積み、現在はベンチャー企業で開発設計に従事。その間、試験装置なども設計。2次元CADや3DCADのCATIA、SOLIDWORKS、FUSIONを使用。ものづくりが好きで趣味はARDUINOを使った電子工作と旅行。失敗の数が成長の証。チャレンジに年齢は関係ないと信じて挑戦しています。
ギヤードモーターの簡易的な選定の流れ
電動モーターの出力は「トルク×回転数」で決まります。
このため、電動モーターを高出力化するには回転数を速くする必要があります。従来は 3000rpm 程度が一般的な最高回転数でしたが、最近では 10000rpm を超える高回転型のモーターも登場しています。
一方で、使用機器によっては「低回転・大トルク」が求められる場合もあり、こうしたときにはギヤボックスを使ってトルクと回転数を調整します。
ただし、モーターとギヤボックスを別々に選定するのは手間がかかるため、一体型の「ギヤードモーター」がよく使われます。ギヤードモーターは電動モーターとギヤボックスが一体化されており、使い勝手の良い製品です。
ギヤードモーターは以下の手順で選定します。
1)要求仕様の確認
使用する機器が必要とする「トルク」や「回転数」など、基本となる要求仕様を確認します。あわせて、以下の使用条件も確認しましょう。
- 変速の有無
- 使用時間
- メンテナンスの可否
- 防水、防塵、防爆などの環境条件
2)電動モーターの選定
要求仕様に基づいて必要な出力(トルク × 回転数)を満たす電動モーターを選定します。出力だけでなく、以下のような点も考慮します。
- モーターの種類(DCモーター、ACモーター、ブラシレスモーターなど)
- 環境性能(耐久性、温度範囲など)
- 制御機器(制御が必要な場合はコントローラの選定も)
3)ギヤボックスの選定
電動モーターは通常、高回転に設計されているため、そのまま使用することは少なく、ギヤボックスで調整を行います。
ギヤボックスのみで要求仕様に合わせるのが困難な場合や、専用設計になると高価になることがあります。
そのため、最終的な調整はコントローラで行うのが一般的です。
4)ギヤボックスとセットで性能確認
電動モーターとギヤボックスの組み合わせにより、ギヤードモーターの仕様が決まります。
ギヤードモーターの選定では出力を一つのポイントで選定しましたが、実際に必要なトルク・回転数を満足しているかは「性能曲線」を用いて確認します。
- 必要トルク時の回転数が不足していれば、より高出力のモーターに変更し、再選定します。
- 回転数が過剰であれば、制御機器での補正が可能か検討します。
この作業を繰り返して、要求仕様を満たすギヤードモーターを最終決定します。
もちろん、防水性など環境条件にも配慮して選定することが重要です。
ギヤードモーターの出力トルク計算の仕方
記号定義
- P (W):電動モーターの出力
- Pg (W):ギヤードモーターの出力
- Tg (Nm):ギヤードモーター出力トルク
- Ng (rpm):ギヤードモーター出力軸回転数
- η :ギヤボックス効率
η をギヤボックスの効率とすると、次の関係式が成り立ちます。
計算結果により選定した電動モーターが市販されていないこともあるため、通常は計算値以上の出力を持つモーターを選びます。必要に応じて専用品を設計することもあります。
ギヤボックスの選定の仕方
変速比(Ig)は、次のようにして求めます:
- T:電動モーターの出力軸トルク(モーター特性より決定)
- Tg:ギヤードモーターの出力軸トルク(要求仕様より決定)
計算で求めた変速比に合うギヤボックスがあれば理想ですが、標準品では見つからないことが多く、専用設計にするか、計算値よりも大きな減速比を持つものを選ぶことになります。
高減速比のギヤボックスを選択すれば、トルクには余裕が生まれます。ただし、その分出力軸の回転速度は遅くなるため、仕様を満たしているかの確認が必要です。
もし回転速度が要求を満たさない場合は、より出力の大きなモーターを選定し、再度計算を行います。
ギヤードモーターのトルク計算の具体例
トルク線図
出力線図
<具体例>要求仕様:
- 必要トルクTg=18Nm
- 必要回転数Ng=50rpm
- ギヤボックス効率 η = 0.95
上記を満足する電動モーターとギヤボックスを選定します。この仕様を満足する電動モーター出力Pは次式で計算します。
→ 計算結果:約99.2W
これにより、連続定格出力が99.2W以上のモーターを選定します。
走行モーターなどの用途では、最大トルクで連続運転しないため、連続定格出力に近い出力を持つ電動モーターを選定します。
ここでは 連続定格出力80W のモーターで検討します。
連続定格出力80Wのモーターの出力線図を見ると、出力が99.2Wを超えるポイントは P=100W、N=2420rpm、T=0.395Nm であることがわかります。このポイントにおけるトルクをもとに、必要な減速比を計算します。
減速比は 45.6 ですが、ちょうどその値のギヤボックスがない場合は、トルクに余裕が出るように、計算値より大きな減速比を持つギヤボックスを選定します。電動モーターの回転数Nは2420rpmなので、ギヤードモーターの出力軸回転数Ngは55.5rpmです。
必要回転数は50rpmですので、それより速い状態ですが、回転数を落とすのはコントローラで対応可能なため、この電動モーターとギヤボックスの組み合わせで仕様を満たすことができます。
なお、今回の計算では、要求仕様として「必要トルク Tg=18Nm」「必要回転数 Ng=50rpm」の1点のみを対象としましたが、走行モーターなどの用途では、一般的に以下の2点を要求仕様とします。
- 最大登坂能力(=最大トルク点)
- 最高速度
これら2点についてもモーターの性能が満たしているか確認し、いずれかが不足していれば、出力の大きいモーターを選定し直し、仕様を満たすまで選定作業を繰り返します。
また、この計算例では「連続使用時間」については考慮していませんが、選定した条件が使用時間の要求を満たしているかどうかも、最終的には確認する必要があります。
ギヤードモーター選定のまとめ
ギヤードモーターの選択は下記の手順に従って選択します。
- 要求仕様のトルクと回転数から、必要なギヤードモーターの出力を計算する
- 計算で得られた出力以上の出力を持つ電動モーターを選定する
- 必要トルクから減速比を計算し、その減速比以上をもつギヤボックスを選定する
- 選定したギヤードモーターが回転数の仕様を満足していない場合は、より高出力の電動モーターに変更して再計算し、仕様を満たすまでこの作業を繰り返す
- 使用時間や防水・防塵など、使用環境に適した仕様の製品を選定する
近年ではモーターの性能向上と制御機器の発達により、油圧機器から電動機器への置き換えが進み、ギヤードモーターの用途もますます広がっています。
本記事がギヤードモーターの選定にあたっての参考になれば幸いです。