投稿日:2025年09月24日
前回のメルマガでは、
構想設計とは「形を考える設計」にとどまらず、顧客の要求や制約条件、製品のライフサイクル全体を踏まえた“上流工程の設計”であり、
「なぜそう設計するのか?」を説明できる論理的思考力が求められる
ということをお伝えしました。
第2回となる今回は、構想設計を任された設計者に欠かせない
「全体を見通す力」
すなわち、プロジェクトの計画と管理に焦点を当てます。
製品そのものの設計だけでなく、
・誰が、いつ、何をするのか
・どの順序で進めるのか
・どんなリスクが潜んでいるのか
といった商品開発の“進め方そのもの”を設計できる力が、構想設計には求められます。
構想設計に必要なマネジメント視点を身につけ、
「現場に強く、全体にも目配りできる設計者」になるための考え方を、
事例を交えてわかりやすく解説していきます。
構想設計を任されたあなたに求められる視点
構想設計という言葉から、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、機構や構造、機能といった「モノ」のイメージでしょう。
しかし、実際の構想設計では、「何をつくるか」だけでなく、「どう進めるか」という“進行計画”の視点も重要になります。
設計リーダーとして真っ先に身につけるべきは、「全体を見通す力」です。
つまり、目の前の設計業務だけでなく、プロジェクト全体の流れや関係者の動きを見渡しながら、自分たちの工程がどう影響しているのかを把握する力です。
– どの順序で設計を進めるのか?
– いつ、誰が、何を担当するのか?
– リスクや遅延にどう対応するか?
– 関係者にどのタイミングで何を伝えるべきか?
こうした「進め方の設計」こそが、構想設計の中核を担います。
その力を支えてくれるのが、世界中のプロジェクト成功事例を体系化した国際標準、「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」の考え方です。
PMBOKは、もともとプロジェクトマネージャーのための仕事を計画・管理するための考え方と進め方の体系(フレームワーク)ですが、構想設計を担う設計者にとっても非常に有効です。
PMBOKを理解することで、設計だけにとどまらない “プロジェクト全体を設計する” 視点を身につけられます。
なぜ“工程の見通し”が重要なのか?
設計現場ではよく、こんな会話が交わされます。
「とりあえず構想案を出してから考えよう」
「いざという時は対処すればいいよ」
こうした場当たり的な進め方は、初期段階ではスピード感があるように見えて、後々大きな手戻りや混乱を招きます。
たとえば、設計途中で基本仕様が変更になった場合、その影響は設計図面の修正だけでなく、製造工程の見直しや、部品手配のやり直し、品質試験のスケジュール再調整など、広範囲に及びます。
これは、コスト・納期・人員すべてに悪影響を及ぼしかねません。
このような事態を未然に防ぐには、プロジェクトの初期段階で「工程を設計する」ことが重要です。
あらかじめ見通しを立て、どこにリスクがあるか、どの段階で判断が必要か、誰がどの役割を担うのかを明確にしておくことで、チーム全体の動きがスムーズになります。
設計という仕事において、「つくる設計」と同じくらい大切なのが「進める設計」なのです。
ストーリー紹介:初めてのプロジェクト管理
設計10年目の佐藤さんは、新製品開発の構想設計を任されました。
これまで設計者としての技術力には自信があり、構造設計も手馴れていた彼ですが、チームを率いるという経験はほとんどありませんでした。
設計メンバーに役割を割り振ったものの、進捗状況の把握が甘く、作業が遅れても「まあなんとかなるだろう」と自分の業務に集中してしまいました。
ところが、仕様変更が立て続けに発生し、製造部門との調整にも時間がかかり、結果的に納期遅れという形でプロジェクトに支障をきたしてしまいました。
責任を感じた佐藤さんは、プロジェクト管理について本格的に学び始めました。
特にPMBOKの考え方を取り入れ、次のプロジェクトでは以下のような取り組みを行いました。
– WBS(Work Breakdown Structure)を使って作業の全体像を把握
– ガントチャートで進捗を見える化し、定期的に進捗会議を開催
– ステークホルダーエンゲージメント計画書を作成し、関係者との密な関係を構築
結果として、メンバー間の連携は格段に良くなり、プロジェクトは予定通り完了。
佐藤さん自身も「設計とは、構造だけでなく、プロジェクトそのものを設計することだ」と大きな気づきを得たのです。
構想段階におけるプロジェクト管理の実践ポイント
PMBOKでは、設計の進行に必要な8つのパフォーマンス領域が定義されています。
その中でも構想設計段階で特に重視すべきは、次の3領域です。
1. ステークホルダーパフォーマンス領域
– 製造・営業・品質保証・経営層など関係者の立場や期待を把握し、適切なタイミングで情報共有・合意形成を行います。
– 「誰に・いつ・何を・どう伝えるか」を事前に計画し、誤解や認識のズレを防ぎます。
2. 計画パフォーマンス領域
– 目的・成果物・進め方を明確化し、スケジュールや予算を全員で共有します。
– 要求は鵜呑みにせず妥当性を検証し、無駄や過剰品質を防ぎます。
3. デリバリーパフォーマンス領域」だけ以下の変更いただけますか。
– クライアントの要求に対して、何を行い何を行わないのかを明確にし、チームで共有します。
– コストが有限であることを認識し、品質を確保するためにコストを有効活用します。
設計者がPM(プロジェクトマネジメント)思考を持つことで得られるメリット
構想設計を担う設計者が、プロジェクトマネジメントの視点を持つことで、次のようなメリットが得られます。
– 無理なスケジュールで疲弊するチームを救う判断ができる
– 社内外の関係者との連携がスムーズになり、設計だけでなくプロジェクト全体が円滑に進む
– レビュー時に根拠あるスケジュール説明ができ、信頼性が高まる
– 「設計者=プロジェクトの舵取り役」としての評価が得られる
技術的な優秀さだけでなく、「見通しがある設計者」としての姿勢が、チーム内外からの信頼を生むのです。
あなたの未来を広げる視点
もしあなたが「自分の設計力を、もう一段上げたい」と思っているなら、技術スキルのブラッシュアップだけでなく、「進め方」のスキルも並行して伸ばすことを意識してみてください。
構想設計は、ひとりで完結する作業ではありません。多くの関係者とともにプロジェクトを前に進めていくためには、計画力、管理力、調整力といった「周囲を動かす力」が求められます。
その力を身につけたとき、あなたはただの設計者ではなく、チームを導くリーダーとして、社内外から頼られる存在になるでしょう。
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次回(第3回)では
設計に求められる“品質・安全・環境・コスト”の多面的な視点について、具体的な考え方と事例を交えてお届けします。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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それでは、またご連絡いたします。