第1回:「図面を描ける」だけでは通用しない ─ 論理的に構想を進める力とは?

投稿日:2025年09月11日

構想設計入門講座(基礎知識編)のリリースに伴い、メルマガシリーズをお届けします。

このシリーズは全3回となっておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

第1回となる今回は、
図面を描けるだけでは通用しない ── 論理的に構想を進める力とは?
というテーマを軸にして、

構想設計における視点の重要性や、基本設計・詳細設計との違い、さらには“構想段階でしかできないこと”について掘り下げていきます。

設計リーダーに「なった」あなたへ

そろそろ構想設計も任せてみようか

そう言われた瞬間、あなたは設計者として新たなステージに立っています。

図面を描く、CADを使う、計算する、そうした業務に慣れた中堅設計者にとって、構想設計はまったく新しい挑戦です。

なぜなら、構想設計は「手を動かす仕事」から「考え、判断し、周囲を動かす仕事」へと、大きく役割が変わるからです。

設計リーダーとして一歩を踏み出したものの、こんな不安を感じたことはありませんか?

– 「仕様通りに考えたつもりなのに、レビューで却下された」
– 「設計の意図を聞かれてもうまく説明できない」
– 「チームの意見がまとまらず、方向性が定まらない」

これらの悩みの原因は、「筋道立てて構想を進める力」が不足していることにあります。

この力は、学校でも会社でも教わる機会が少なく、実は“独学では身につきにくいスキル”なのです。

加えて、構想設計では、アイデアを生み出す力やチーム内の合意形成、他部署との調整力まで求められるようになります。

これは、それまでの「自分ひとりで完結する作業」とはまったく異なる、周囲と連携しながら進めるための、より高度で幅広い力が求められる段階です。

構想設計に必要な“考える力”とは?

構想設計は、単なる思いつきや過去の事例の流用では成り立ちません。

目指すべきゴールに向けて、求められる機能や性能、コスト、納期、安全性といったさまざまな要素をバランスよく整理し、理にかなった構成を導き出すプロセスです。

この段階で欠かせないのが、
なぜこの案にしたのか?」という問いに、
自信を持って答えられる論理的な説明力。

つまり、アイデアに至るまでの思考の“筋道”を、相手に分かる言葉で伝える力です。

たとえば、ある構造案を考えたとき、コスト面では優れているけれど強度に不安があるとします。

そのときは、「FMEA(故障モード影響解析)」という手法を使って、どんな不具合が起きうるかをあらかじめ洗い出し、優先順位をつけて対策を検討します。

また、「DRBFM(設計変更に注目したレビュー)」では、従来品からの変更点に着目して、影響が出そうな箇所を事前にチェックします。

こうした考え方の流れをしっかり説明できれば、レビューの場でも納得を得やすくなるのです。

さらに、FTA(故障の木解析)を併用することで、問題の発生要因を論理的に追い詰め、根本的な対策を練ることが可能になります。

これらのツールを“形だけ”でなく“意味を理解して”使いこなすことで、構想の説得力が格段に増していきます。

ミスや手戻りは「構想段階」で防げる

設計がある程度進んでから、

– 「やっぱりこの仕様じゃダメだった」
– 「製造段階で問題が見つかって、やり直し」
– 「コストが合わず、赤字になってしまった」

といった“後戻り”や“問題”が起こると、スケジュールや予算に大きなダメージを与えます。

実はこうした問題の多くは、図面を描く前の「構想段階」での検討が足りなかったことが原因です。

早い段階で問題の芽を見つけ、設計の方向性を正しく決めておく「フロントローディング」という考え方が、今の設計現場ではますます重要になっています。

そのために必要なのが、上で紹介したような設計手法や、論理的に思考を整理する“進め方”なのです。

また、構想段階での検討は、関係部署との連携にも大きな影響を与えます。

営業部門からの要求、製造現場の都合、法令や安全基準との整合性、こうした点も含めて総合的に判断できるかどうかが、プロジェクトの成否を分けるポイントです。

ストーリー紹介:ある中堅設計者の気づき

30代半ばの設計者・田中さんは、初めて構想設計を任されました。
試行錯誤しながら案をまとめ、意気込んでレビューに臨みましたが、上司の一言で戸惑います。

なぜ、その案にしたの?

焦った田中さんは、「コストが安かったから」「なんとなく無難に見えたから」と曖昧な理由を答えてしまいます。

結果、案は却下。自身の経験や勘に頼っただけでは、相手を納得させられないことを痛感しました。

その後、田中さんはDRBFMでリスクを可視化し、変更点のチェックポイントを整理して再提案したことで、チーム全体の納得を得られたのです。

この経験をきっかけに、田中さんは「構想とは、設計者の頭の中だけで完結するものではなく、他人に伝わって初めて価値を持つ」と考えるようになりました。

あなたに訪れる未来

「考え方を見える化できる」設計者は、周囲からの信頼が一気に高まります。

– レビューで論理的に説明できる
– 若手に判断の根拠を伝えられる
– チームの方向性をブレずに導ける
– 他部署や上層部とも対等に議論できる

これは、あなた自身のストレスを減らすだけでなく、設計という仕事に対する手応えや誇りにもつながります。

構想設計は、「図面を描く力」から「考えを組み立てる力」へと、設計者をもう一段上のステージへ引き上げてくれます。

もしあなたが、「現場のまとめ役」や「若手の指導者」として一歩先に進みたいと考えているのなら、構想段階の“思考力”を磨くことが、確実にあなたの武器となるでしょう。

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次回(第2回)は

プロジェクト全体を見通す力 ── 設計を成功に導く「計画と管理」

についてお伝えします。
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最後までお読みいただきありがとうございました。