第2回:アイデアを通すために必要な視点 ── 顧客と市場を理解する“構想設計の分析力”

投稿日:2025年12月01日

前回のメルマガでは、
発想とは「ひらめき」ではなく、論理的な“プロセス”であること、
そして「なぜその案が最適なのか」を説明できる力が
構想設計者に求められるというお話をしました。

第2回となる今回は、構想設計を任された設計者に欠かせない
「分析の力」、すなわち――

顧客・市場・自社を理解し、
価値あるアイデアを導くための“分析思考”に焦点を当てます。

発想を仕組み化するうえで最も重要なのが、
“誰の、どんな課題を、どのような価値で解決するのか”
を見極めることです。

その出発点となるのが、顧客理解と市場分析です。

設計者に求められる「相手を知る」視点

設計をしていると、どうしても“技術的に実現できるか”という視点に
意識が集中しがちです。

しかし、構想設計の段階で求められるのは、
「誰のために、何を設計するのか」という根本の問いに立ち返ることです。

この視点を欠いたまま進めてしまうと、
“高性能だけど使いづらい”“コストが合わない”“顧客が本当に求めていなかった”
といった結果を招くことになります。

だからこそ、構想設計の第一歩は「相手を知る」こと。
つまり、顧客・市場・自社の3つの観点をバランスよく捉えることです。

よくある課題:顧客の「本当のニーズ」が見えていない

たとえば、ある企業で「既存製品の改良」を検討していたとします。

営業部門からは「もっと軽くしてほしい」という要望が上がりました。
設計チームはその言葉を“重量を減らすこと”だと受け取り、
材料を樹脂に変更して軽量化を実現しました。

しかし、試作品を使った顧客からは、
「確かに軽くなったけれど、片手で操作するとブレてしまい、かえって扱いにくい」
という指摘がありました。

実は顧客が求めていたのは、
“持ち運びやすさ”ではなく“操作感の軽さ”、
つまり「片手でも安定して操作でき、長時間使っても疲れにくいこと」だったのです。

このようなすれ違いは、
設計者が“表面的な要求”だけを仕様として捉え、
“その背景にある意図”を理解できていないときに起こります。

顧客を深く理解するための分析アプローチ

構想設計において、発想を支えるのは「分析の力」です。
感覚や経験に頼るのではなく、情報を構造的に整理すること。
そのために有効なのが、以下の3つの手法です。

1)6W2H分析
 Who(誰が)、Why(なぜ)、What(何を)、Where(どこで)、
 When(いつ)、Whom(誰のために)、How(どうやって)、How much(いくらで)
 の視点から、顧客ニーズを網羅的に整理します。

 これにより、設計の出発点となる「本当に必要な価値」が見えてきます。

2)QFD(品質機能展開)
 顧客の声(VOC)を設計仕様へ変換する手法。
 顧客要求と設計要素の関係をマトリクスで整理することで、
 “どの要求をどの機能で満たすのか”が明確になります。

3)特性要因図(フィッシュボーン図)
 課題や不具合の要因を構造的に分解し、
 アイデアを出す前に問題の根本を見つけ出すために活用します。

これらの手法は、単なる分析のための道具ではなく、
“思考を整理し、発想を導くための設計アプローチ”です。

ストーリー:若手リーダー・中村さんの気づき

入社12年目の中村さんは、新製品の構想設計チームを任されました。

顧客から「より静かに動く製品にしてほしい」と要望を受け、
すぐに防振ゴムの追加を検討しましたが、コストアップが懸念され断念。
結局、決定打がないまま議論が進まず、
チーム全体が迷走してしまいました。

そこで中村さんは、顧客ヒアリングを改めて実施。
6W2Hを用いて使用環境や利用目的を細かく分析すると、
“静音化”の背景には「夜間作業時の周囲への配慮」という別の目的があると分かりました。

そこで、構造の見直しではなく、
操作部に“静音モード”を追加する案を提案したところ、
コストを抑えつつ顧客満足度を大幅に向上させることができました。

中村さんはこう語ります。
「顧客の言葉をそのまま受け取るのではなく、
 その奥にある“意図”を設計に落とし込むことが大事だと感じた。」

構想設計を任されるリーダーに求められる分析力

構想設計を任せられるリーダーには、
「優れたアイデアを出す力」だけでなく、
「その根拠を論理的に説明できる力」が問われます。

分析のプロセスを踏まえて設計を進めれば、
・顧客や市場のニーズを的確に捉えられる
・関係者に納得感を持って説明できる
・レビューでの合意形成がスムーズになる

といった効果が得られます。

発想を支えるのは、着実な分析の積み重ねです。
つまり、“考える設計者”であるためには、
“見抜く力”と“伝える力”の両方が欠かせません。

まとめ:発想を形にする第一歩は「分析」から

アイデアが“通る設計”になるかどうかは、
その裏付けとなる分析の深さにかかっています。

構想設計を担うリーダーには、
「何を」「誰のために」「どんな価値で」つくるのかを見極める視点が必要です。

分析によって見えてくる“価値の構造”こそ、
次の発想を生むための土台になります。

次回(第3回)は、
「発想を形にする ―― アイデアを仕様書へ落とし込む方法」
について、具体的な考え方と実践例を交えてお届けします。

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