投稿日:2024年02月10日
高圧ガス保安法って知っていますか?
製造業の管理者や工場の保安や建設に携わる人であれば、ほとんどの人が聞いたことがあるかと思います。
この高圧ガス保安法は、あらゆる産業に大きくかかわっている法令にも関わらず、学校で教わる機会はほとんどありません。おそらく社会人になってから、初めて高圧ガス保安法について学ぶ人がほとんどではないでしょうか。
その為、高圧ガス保安法について、「よくわからないから、、、」と、苦手意識を持っている工学系の人も多いのではないでしょうか?
まずは、高圧ガス保安法の基本的なことを捉えておくことが大切です。
この記事では、高圧ガス保安法とは何なのかについてザックリと説明を行い、わかりづらいといわれている事業者がすべきことや高圧ガスの施設区分について解説します。
この記事を読んで、高圧ガス保安法で規制される具体的な項目である「技術上の基準」の中身を見てもらえればと考えています。
そもそも高圧ガス保安法って?
高圧ガス保安法上の高圧ガスとは、さまざまな定義がありますが、簡単に言うと1MPaGを超える圧縮ガスと0.2MPaGを超える液化ガスを対象とします。
※MPaGの「G」はゲージ圧(ゲージ圧力)のこと
身近にあるガスを使ってモノを作ったり動かしたりと、あらゆる産業で使用されるガス(※一部例外もあります)において、その使用方法や保管方法、製造方法について細かく規制しているのが高圧ガス保安法です。
キーワードとして、高圧ガスの「製造」「貯蔵」「販売」「移動」「消費」「容器の製造・扱い」「廃棄」を規制しているのだと認識してください。
また、関係法令には、以下の5つの規則が存在しており、それぞれの規則に「技術上の基準」が定められています。それぞれの規則の特徴をまとめてみます。
規則名 | 特徴(大まかな概要) |
一般則 | 製造施設、貯蔵施設、消費施設や移動、販売、廃棄についての規則であり、高圧ガスを使って何かしている事業者のほとんどはこの規則が適用される。 |
コンビ則 | 一般則をより強化したものであり、コンビナート地域等の指定されたエリアにある事業者または、特定製造事業者(高圧ガスの処理量や貯蔵量が多い事業者のこと)にこの規則が適用される。 |
特定則 | 高圧ガスを扱う塔や貯槽、反応器、蒸発器や熱交換器等を個別で検査するための規則であり、主にそれら機器を製造するメーカに課せられる。特定則が適用される装置のことを「特定設備」と呼ぶ。 |
容器則 | 主に、移動できる容器(主にボンベ)に適用される規則であり、ボンベの所有者やボンベの製造メーカに課せられる。 |
液石則 | 一般消費者等への液化石油ガス(LPガス)の販売、保安業務、供給設備・消費設備のほか、ガス器具について規制している。 |
まず知っておくべき用語
高圧ガス保安法になじみの無い人は、まずは法規上の用語を知っておかなければいけません。知っておくべき用語としては、「高圧ガスの定義」「高圧ガスの分類」です。
高圧ガスの定義
まずは、高圧ガスの定義ですが、高圧ガス保安法で定める「高圧ガス」とは、以下の表にまとめた3種類のガスを対象としています。
また、高圧ガス製造施設には、高圧ガスに昇圧する前(上流)の圧力が低い状態のガスを「低圧ガス」と呼んでおり、そのガスを扱う設備は「ガス設備」と呼ばれます。
このガス設備も高圧ガス保安法の適用範囲に含まれるので注意が必要です。
ガスの種類 | 法令上の定義 |
圧縮ガス | ①常用の温度で1MPaGを超えるガスの内、扱うガスの状態で1MPaG以上のガス ②35℃で1MPaG以上となるガス |
液化ガス | ①常用の温度で0.2MPaG以上となり、扱うガスの状態で0.2MPaG以上の液化ガス ②35℃で0.2MPaG以上となる液化ガス |
圧縮アセチレンガス | ①常用の温度で0.2MPaG以上となり、扱うガスの状態で0.2MPaG以上の圧縮アセチレンガス ②35℃で0.2MPaG以上となる圧縮アセチレンガス |
※常用の温度とは、操業時の装置の常用温度と40℃のうち高い方の温度のことをいう。
※アセチレンガスは、自己分解性が高い為、他のガスに比べて厳しい条件としている。
高圧ガスの分類
法令の文章内では、ガスを分類し規制をしていることが多く、その種類を知っておく必要があります。その分類について以下にまとめておきます。
表:高圧ガスの分類
分類名 特徴 可燃性ガス 空気中や酸素中で燃えるガス。(爆発下限界の下限が10%以下又は、爆発下限界の上限と下限の差が20%以上のガスが対象となる) 毒性ガス 一般高圧ガス保安規則で指定されている33種類のガスと毒物及び劇物取締法による毒物。(塩素、一酸化炭素、亜硫酸ガス、アンモニア、酸化エチレン、ホスゲン等) 毒性ガスの定義は2016年11月の一般則改正によって毒性ガスの定義が変わっています。 支燃性ガス 他の物質を燃焼させることができるガス。(酸素、空気、塩素、亜酸化窒素等) 不活性ガス 自身も燃焼せず、他の物質も燃焼させる性質を持たないガス。(窒素、炭酸ガス、アルゴン、ヘリウム等) 特定不活性ガス 主に冷媒用ガスとして、温暖化係数が低く、わずかに燃焼性があるもの(HFC-32、HFO-1234yf等) 特殊高圧ガス 法定の定義では、一般高圧ガス保安規則第2条に記載されている7種類のガス(アルシン、ジシラン、ジボラン、セレン化水素、ホスフィン、モノゲルマン、モノシラン) 特定高圧ガス 特殊高圧ガスの7種、圧縮水素、圧縮天然ガス、液化酸素、液化アンモニア、液化石油ガス、液化塩素のガスが対象。 引用元: 高圧ガスハンドブック(第4次改訂版)|一般社団法人 日本産業・医療ガス協会
具体的に事業者は何をするのか?
高圧ガスを扱う事業者は、その規模や施設に応じて以下表に示す項目を実施しなければいけません。
いずれも高圧ガス保安法だけでなく、一般則やコンビ測などの技術上の基準を満たしていることも行政に申請する必要があります。
実施項目 | 関係行政 |
製造や販売、移動などの許可の取得 | 都道府県知事による許可 |
危害予防規定の提出 | 都道府県知事への提出 |
有資格者・責任者の選任と提出 | 都道府県知事への提出 |
完成検査 | 都道府県知事、高圧ガス保安協会、指定完成検査機関のいずれかで実施 |
保安検査 | 都道府県知事、高圧ガス保安協会、指定完成検査機関への提出 |
自主検査 | 都道府県知事への提出 |
従業員への保安教育の実施 | ― |
帳簿の記録保管 | 経済産業省及び都道府県知事による立入検査や報告徴収 |
高圧ガスの製造に関する規制より
高圧ガスの貯槽に関する規制より
販売事業者について
特定高圧ガス消費者(大量貯蔵を伴う事業所等)について
容器等に関する規制について
施設区分について
実際の事業場では、法令上の何の施設に該当するかを判断できなければ、製造施設の技術上の基準を満たせばいいのか、貯蔵施設の技術上の基準を満たせばいいのかが分かりません。
製造施設は、処理するガス量に応じて第一種製造者、第二種製造者に分類され、貯蔵施設は、貯蔵するガス量に応じて第一種貯蔵所、第二種貯蔵所に分類されます。
その他には、貯蔵するガス種によって特定高圧ガス消費者やその他ガス消費者等に分類されることにもなるのです。
例えば、高圧ガス製造施設と貯蔵施設については、下の判断基準(事業場の区分)に記載しているように、製造行為があるかないかで判断することになります。
また、製造施設の中でも、施設内の範囲を表す「高圧ガス設備」「ガス設備」「製造設備」の設備がどのように区別しているかについても知っておくと、法令をより理解しやすくなります。
高圧ガス保安法による事業場の区分
引用元: 高圧ガスハンドブック(第4次改訂版)一般社団法人 日本産業・医療ガス協会
製造施設の設備区分
まとめ
高圧ガス保安法は、基本用語をしっかりと理解を深めることから学んでいくことが大切です。
法令の内容は、基本用語が頭に入っていれば、理解に苦労することはありません。
しかし、実際に実務で高圧ガス保安法に携わる場合は、保安検査や定期自主検査などの手法や、変更工事を行った際の完成検査の方法について実践的に知っておくことも数多くありますので、実務経験を踏みながら知識を増やしていくことになります。
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