投稿日:2025年10月21日
今回から3回にわたって「設計品質を高めるためのベストプラクティス集」シリーズをお届けします。
【シリーズ内容】
第1回:設計品質とは何か?現場で求められる“品質”の正体
第2回:標準化と文書化で“属人設計”から脱却する
第3回:ツール活用と成功事例に学ぶ“攻めの設計品質向上”
このシリーズでは、設計品質に関する基本的な考え方から、実際の現場で役立つ改善の方法まで、3回にわたりわかりやすくお伝えします。
不具合や手戻りを減らし、設計力を高めていくために、まずは“設計そのものの品質”に目を向けるきっかけにしていただければと思います。
はじめに:「その設計、本当に大丈夫?」
突然ですが、
皆さんは自分の設計にどれくらい自信がありますか?
「強度解析も行っているし、仕様も満たしている」
と感じている方も多いかもしれません。
しかし、実際に製品が不具合を起こしたり、手戻りが発生したりしたときに、
「なぜこうなったのか?」と振り返った経験はないでしょうか?
設計は、図面や仕様など“形になる前”の仕事です。
そのため、成果物の良し悪しがすぐに見えづらく、「設計品質」の重要性が後回しになってしまうこともあります。
けれども、今の時代では、設計品質の違いがそのまま企業の競争力の差につながる場面が増えています。
このメールマガジンでは、「設計品質」に注目し、日々の業務に取り入れやすい方法や工夫をご紹介していきます。
第1回では、まず「設計品質」とは何か、なぜ今あらためて見直す必要があるのかを、実際の事例も交えながら考えていきましょう。
設計品質とは?なぜ大切なのか
「品質管理」という言葉はよく耳にしますが、「設計品質」と言われると、明確に答えるのが難しいという方もいるのではないでしょうか。
設計品質とは簡単にいえば、「製品の設計段階で顧客の要求を満たしている度合い」のことです。
ここでいう要求には、強度や安全性はもちろん、コストや組み立てのしやすさ、他部署との連携、再設計の少なさなど、後の工程に影響を与えるさまざまな要素が含まれます。
これらはすべて、製造以降の工程や最終製品の品質に直結します。だからこそ、設計の段階でどれだけリスクを事前に防げるかが重要です。
ところが、実際の現場では「図面を仕上げたら終わり」という意識が根強く、設計そのものの品質の見直しや、改善する取り組みが後回しになりがちです。
設計品質が低いとどうなる?〜失敗から学ぶ
たとえば、ある中堅メーカーでは、発売直後の製品にクレームが相次ぎました。
調べてみると、応力が集中する部分の強度検討が不十分で、実際の使用環境では早期に破損が起きていたのです。
図面には「強度確認済」と書かれていたものの、その内容は明確な数値根拠がなく、経験による判断にとどまっていました。
また別の企業では、設計段階で組み立てのしやすさが十分に確認されていなかったため、製造現場で「工具が入らない」「締め付け作業が困難」といった問題が発生しました。
結果的に、量産前に多くの図面を修正することになり、納期の遅れやコストの増加を招いてしまいました。
このような事例からもわかるように、設計品質の甘さは、現場での混乱や顧客からの信頼低下に直結するリスクをはらんでいます。
はじめの一歩:デザインレビューの見直し
では、設計品質を改善するにはどうしたらよいのでしょうか。
その第一歩としておすすめなのが、「デザインレビューのやり方を見直すこと」です。
しかし、皆さんの職場では、デザインレビューが単なる形式的な確認になっていませんか?
・上司が目を通してハンコを押すだけ
・若手は黙って聞いているだけ
・気になる点があっても、言い出しにくい雰囲気がある
このような状態では、レビューの本来の目的を果たしているとは言えません。
デザインレビューは本来、「設計の考え方を見える形にして、第三者の目で妥当性を確認する場」です。
そのためには、見るべきポイントを明確にした“チェックリスト”の活用がおすすめです。
チェックリストで確認ポイントを明確に
デザインレビューで使えるチェックリストを導入すると、確認すべきポイントが明確になり、誰でも同じ視点で設計を見直せるようになります。
たとえば:
– 強度や剛性の検討に根拠があるか(解析結果や経験に基づく説明)
– 製造時に問題がないか(工具が入るか、許容公差は適切かなど)
– 組み立てや保守がスムーズにできるか
– 材料や製造方法、コストの選定が適切か
– 他部署との調整ができているか(部品の干渉やスケジュール面など)
こうした項目が明確であれば、若手でも自信を持って意見が言いやすくなり、チーム全体で品質を意識する風土が育ちます。
デザインレビューは“話し合いの場”に
デザインレビューは、上司がチェックする場ではなく、「気づきを共有し、より良い設計を一緒に考える場」であることが理想です。
そのためには、以下のような文化を育てていくことが大切です:
– 誰でも気づいたことを言ってよい
– 指摘されたことに対して素直に耳を傾ける
– お互いの意見から新たな発見が生まれる
こうした雰囲気があれば、レビューを通じて学びが深まり、設計品質の底上げにつながっていきます。
まとめ:まずはできるところから
設計品質を見直すことは、良い設計を生み出すための第一歩です。
すぐにすべてを変える必要はありません。
まずはレビューの進め方を見直すこと、チェックリストを作ってみることなど、できるところから始めてみましょう。
小さな取り組みの積み重ねが、不具合やトラブルの防止につながり、設計チーム全体のスキル向上へとつながります。
次回のご案内:標準化と文書化で“属人設計”から脱却する
次回のメルマガでは、設計品質を安定的に保ち、継続して向上させていくために欠かせない、「標準化」と「文書化」の実践的な方法をご紹介します。
ベテラン設計者の知識やノウハウをどうやってチームに共有するか、設計が属人的にならないためにどのような工夫ができるかをお伝えします。
ぜひお楽しみに。
ものづくりウェブ事務局


