【ものづくりの学び】属人設計から脱却する!設計標準化と文書化の実践ポイント

投稿日:2025年10月23日

現在お届けしているのは「設計品質を高めるためのベストプラクティス集」シリーズです。

今回は第2回として、“設計の属人化”を防ぐ「標準化」と「文書化」について、わかりやすくご紹介していきます。

【シリーズ内容】
第1回:設計品質とは何か?現場で求められる“品質”の正体
第2回:標準化と文書化で“属人設計”から脱却する
第3回:ツール活用と成功事例に学ぶ“攻めの設計品質向上”

属人設計とはどういうこと?

この設計、◯◯さんにしか分からないんだよね…

そんな言葉を聞いたことはありませんか?

設計業務というのは、その内容や進め方が設計者個人のスキルや経験に強く依存しやすい性質があります。

特に、中小企業や設計チームが小規模な組織では、長年の経験からくる知識やノウハウが文書化されておらず、「その人にしかできない設計」が発生してしまうことも少なくありません。

その結果、次のような課題が起きやすくなります:

– 担当者が変わると、設計の内容や考え方が一貫せずバラつきが出てしまう
– 経験が浅いメンバーは、都度判断に迷い、設計に時間がかかる
– 設計の引き継ぎや新人教育に多くの労力がかかる
– 設計品質が人に依存してしまい、組織として安定しにくくなる

こうした状況が続くと、品質や納期に影響が出たり、技術継承が滞ったりするなど、長期的に大きな問題につながる可能性があります。

設計を標準化する:判断の軸を共有しよう

属人化を防ぐための第一歩は、「設計の標準化」です。

ここでいう標準化とは、設計における考え方や判断のポイント、作業の進め方をルール化・文書化し、チームで共有することを指します。これにより、誰が設計しても一定レベルの品質や進め方が保たれるようになります。

たとえば、標準化に含まれる内容は次のようなものです:

– 材料や板厚などの選定基準(よく使う値や条件)
– 許容公差、面の仕上げ、表面処理の推奨値
– よく使うリブの配置や部品形状の例(強度や加工性を考慮)
– ネジやボルト・ナットなどの締結部品の種類と使い分け
– よくある設計パターンと注意点をまとめた事例集

これらを「設計標準書」として文書化し、定期的に更新・運用することで、設計の質を安定させるだけでなく、新人や若手の教育にも大いに役立ちます。

実際、標準化によって設計時間が短縮されたり、手戻りが減ったりしたという話も少なくありません。

標準は“使われてこそ意味がある”

いくらしっかりと標準を作成しても、「読まれていない」「更新されていない」「そもそもどこにあるか分からない」という状態になってしまうと、効果は半減してしまいます。

標準化は“活用されてこそ価値がある”ものです。

そのためには、まず定期的な見直しが必要です。たとえば年に1回など、内容を確認して現場の声を反映するタイミングを設けるとよいでしょう。

また、内容を変更した際には、その理由を必ず記録することが大切です。「なぜこのように変更したのか」が分かることで、背景や意図も含めて情報を引き継ぐことができます。

改訂履歴を残しておくことで、過去の設計との比較も可能になりますし、標準がどのように発展してきたのかも把握しやすくなります。

さらに、更新された内容はチーム全体で共有することも欠かせません。設計ミーティングやチャットツールを活用して、変更点を周知徹底する仕組みを整えておくことが必要です。

最後に、標準書がどこにあるのか、どのように閲覧できるのかをチーム全体に周知することも忘れてはいけません。ファイルの保存場所やアクセス方法が分かりやすく整備されていることで、必要なときにすぐ確認できる環境が整います。

このように、標準書を“生きたルール”として扱うためには、定期的な更新、理由の記録、情報の共有、アクセス性の向上といった工夫が不可欠です。

こうした取り組みによって、標準は日々の設計業務に自然と根付き、組織全体の設計品質の向上にもつながっていきます。

設計の考え方を残す:設計ノウハウ文書化のすすめ

標準化とセットで進めたいのが、「設計ノウハウの文書化」です。

文書化とは、設計の進め方や判断の根拠、工夫した点などを記録に残すことを意味します。

特に若手設計者が上司や先輩の考え方を学ぶうえで、文書は大切な教材になります。

以下のような文書があると便利です:

– 設計手順書(業務の流れや注意点を図解でまとめたもの)
– 技術検討メモ(設計条件・選定理由・計算の根拠など)
– 設計レビュー記録(指摘内容・改善案・参考資料など)
– Q&A集(過去によくあった質問とその回答をまとめたもの)

設計に関する文書は、「あとから見る人が分かるように」「迷わず探せるように」整理されていることが大切です。そうした工夫がなされていれば、設計チーム全体の効率は大きく向上します。

文書を見やすく、活用しやすくするためには、文章が長くなりすぎないように気をつけ、図や表、箇条書きなどを使って視覚的に整理することが効果的です。

また、書く側の負担を減らすために、あらかじめテンプレートを用意しておくと、必要な情報を迷わず記録できるようになります。

加えて、ファイル名やフォルダの構成をチーム内で統一し、共有フォルダで管理することで、誰でも簡単に目的の文書を見つけることができます。

さらに、クラウドストレージなどを活用することで、場所を選ばずスムーズにアクセス・編集できる環境が整います。

このような工夫を積み重ねることで、設計ノウハウが組織の財産となり、属人化の解消にもつながります。

文書化と標準化によって期待できる効果

設計の見える化を進めることで、以下のような効果が期待されます。

「新人が自分で設計ミスに気づけるようになる」
「設計の引き継ぎがスムーズに進む」
「設計品質が安定してくる」など、現場での変化が見込まれます。

標準や文書を活用することで、ベテランの経験や勘に頼らず、一定の設計品質を保つことが可能になります。また、技術継承や教育面でも効果を発揮することが期待されます。

属人的だった判断やノウハウを見える化・共有することで、組織全体の設計力向上につながると考えられます。

まとめ:できることから、少しずつ

標準化や文書化は、最初から完璧を目指す必要はありません。

まずは、自分の業務の中で「毎回迷うこと」や「人によって判断が分かれやすいこと」など、気になるところを洗い出し、小さな取り組みから始めてみましょう。

– 自分の判断や選定の理由を、簡単に書き残してみる
– よく使う設計例を整理して、チームで共有してみる
– 設計レビューのメモをフォルダに残して、次回以降の参考にする
– チーム内で1つのルールを決めて運用してみる

このような「小さな工夫の積み重ね」が、将来の設計品質の土台になります。

標準化と文書化は、“仕組み”を通じて組織全体の力を高めるための大きな鍵です。

次回のご案内:ツール活用と成功事例に学ぶ“攻めの設計品質向上”

次回のメルマガでは、CADやシミュレーション、進捗管理ツールなど、設計業務に役立つさまざまなツールの活用方法をご紹介します。また、実際の企業での取り組み事例をもとに、“攻めの品質改善”を実現するヒントもお届けしてまいります。

どうぞお楽しみに。

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