金型の抜き勾配とは?成形不良を防ぐ設計の基礎知識

投稿日:2025年02月21日

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金型設計において、抜き勾配は製品の品質、金型の寿命、生産効率に大きな影響を与える重要な要素です。不適切な抜き勾配は、製品や金型の破損を招き、生産効率を大幅に低下させる可能性があります。

本記事では、抜き勾配設計ミスによる具体的な影響や設定方法について解説します。

金型設計における抜き勾配の重要性

抜き勾配とは、成形品を金型から取り出す際に必要な製品の側面に設ける傾斜のことです。この傾斜があることで、成形品が金型に引っかからずスムーズに取り出せます。特に複雑な形状や特殊な材質の場合には一層の注意が必要です。

抜き勾配の必要性

成形品は冷却時に収縮する特性があり、金型に密着してしまう場合があります。このときに抜き勾配がないと製品が金型に食い込み、取り出しが困難です。

抜き勾配が小さすぎると、金型に大きな負荷が掛かることで傷みやすくなったり、傷やクラックなど成形不良、寸法不良の原因にもなったりします。

抜き勾配を適切に設定することは、これらの問題を防ぎ、生産性を向上させる鍵となります。

抜き勾配が不足した場合の影響

抜き勾配が不足すると、以下のような問題が発生します。

  • 成形品の変形や破損: 成形品に過剰な力が加わると、変形や破損が生じやすくなります。薄肉の製品や複雑な形状の場合、特に注意が必要です。
  • 金型の損傷: 無理な取り出しによって金型に傷がつくと、修理に多大なコストと時間がかかります。
  • 生産性の低下: 製品の取り出しに時間がかかると、生産サイクルが遅延し、結果として納期の遅れやコスト増加につながります。
  • 品質のばらつき: 取り出し時の負荷により製品に歪みが生じると、寸法精度や品質の安定性が損なわれます。

抜き勾配不足は様々な問題を引き起こし、結果として製品の品質低下や生産コストの増加を招く可能性があります。

抜き勾配の適切な設定方法

抜き勾配の角度は一般的には1°から2°前後となることが多いですが、設計的に抜き勾配がとりにくい場合でも、原則、最低0.5°の抜き勾配が必要となります。

設定時に考慮すべきポイント

  • 成形品の形状: 深絞りや突起の多い形状では、より大きな抜き勾配が必要です。
  • 材質の収縮率: 収縮率が高い材料では製品が金型に食い込みやすいため抜き勾配を大きく設定します。
  • 製品の深さ: 深い形状は成形品を取りだしにくくなるため、傾斜角度を慎重に計算する必要があります。

抜き勾配の設定式の一例として以下の式があります。

それぞれの意味は下記です。

Δt: 寸法変化量(製品の深さ × 材料の収縮率)
H: 製品の抜き方向の高さ
θ: 抜き勾配角度

実用的な早見表(高さと抜き勾配角度に基づく寸法変化)

高さ (H) 抜き勾配角度 (θ) = 1° 抜き勾配角度 (θ) = 2°
50 mm 0.87 mm (Δt) 1.75 mm (Δt)
100 mm 1.75 mm (Δt) 3.49 mm (Δt)

この式を参考に、試作やテストを繰り返しながら適切な勾配を設定することが重要となります。

製品形状や材質による調整

形状が複雑で突起が多い製品や、収縮率が高い材料を使用する場合には、通常の設定以上の抜き勾配が必要です。

例えば、シボが入る場合は、2度以上の抜き勾配が必要とされます。一方、ABS樹脂のような収縮率の低い材料では、より小さな角度でも対応可能です。

製品形状や材質を考慮して最適な抜き勾配を設計するためには、製品の設計段階から金型設計者と連携することが重要となります。

設計ツールの活用

抜き勾配の設定には、CADソフトや専用の設計ツールが役立ちます。例えば、CADソフトウェアでは、製品の3Dモデルに対して抜き勾配を適用する面を選択し角度を指定するだけで簡単に抜き勾配の設定が可能です。

また、金型設計専用のソフトウェアでは、製品の形状や材質、使用する金型に応じて、最適な抜き勾配を自動で計算する機能も搭載されていることがあります。ツールの機能を利用することで、次のような利点が得られます。

  • 自動設定機能による迅速な設計
  • 干渉チェック機能による精度向上
  • 設計データの共有によるチーム作業の効率化

設計ツールを効果的に活用することで、抜き勾配の設定にかかる時間と手間を大幅に削減し、設計者の負担を軽減できます。

抜き勾配に関する注意点

金型設計において抜き勾配は非常に重要な要素ですが、その必要性や設定方法について、疑問や誤解をお持ちの方もいるかもしれません。抜き勾配は、製品の品質や金型の寿命に大きく影響するため、正しい知識を身につけることが大切です。

抜き勾配がすべての製品に必要か?

抜き勾配を0にすることも可能です。例えば、勾配0に対応できる材質を使う、冷却時間を長くして金型で強制的に抜く構造を採用する、などの方法があります。ただし、多くのケースで抜き勾配が品質安定や金型保護のために必要です。

過剰な抜き勾配のリスク

抜き勾配を大きくしすぎると、製品の寸法精度が低下し、後加工のコストが増加するおそれがあります。そのため、必要最小限の角度で設定することが推奨されます。

まとめ

抜き勾配は金型設計において不可欠な要素であり、製品の品質と金型の寿命、生産効率に直結します。適切な角度を設定することで、トラブルを未然に防ぎ、高品質な製品を安定して生産することが可能です。

設計時には形状や材質、成形方法を考慮しながら慎重に設定を行いましょう。

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